氷河特急のルートを普通列車でツェルマットまで
さて日本からのツアーであれば普通はサン・モリッツからツェルマットまでが氷河特急のルートということになっている。しかしながらこの日の行程はツェルマットから更に足を延ばし、ゴルナーグラート3100クルムホテルに宿泊予約をとっていた。
有名な山岳ホテルで今回のスイスツアーの中でもいくつかのハイライトの一つとして期待の計画である。
なんといってもご来光で山頂が赤く輝いてるマッターホルンをガイドブックで知り、ツェルマットからのツアーで行くのではなく、前夜から3100mホテルに陣取り部屋で夜明けを待つという作戦である。しかし問題は天候が我に味方するかどうかだ。
従ってホテルには夕方遅く着くのではなく、午後の出来るだけ早い時間にチェックインしたかった。
そのためには何時の列車に乗れば良いかを逆算しつつSBBの時刻表をフルに活用しながら前日の宿泊地と出発時間を決めていった。
この作業で意外なことを知った。氷河鉄道は一日に2~3本しかなく、それもゆったりとした計画で、自分のようなバッグパッカーが朝早くから動き回ることを前提としていないため、氷河特急を使えば到着が夕方になってしまう。
この段階で普通列車で行くことに決めた。
氷河特急と普通列車で所要時間の差は30分程度
そして普通列車でChurからZermattまでの列車をSBB時刻表で調べると、どうもルートの異なるものが4本の中に混在している。氷河特急といっても厳しいルートのため平均時速が30Km程度とは知っていた。だから普通列車の乗り継ぎで行っても到達時分は30分程度しか変わらない。
しかし氷河特急より1時間も早い列車がある。それはチューリッヒ経由ルートであった。そこで検索時にAndermatt経由と指定して、やっと希望の答えが出てきた。
以上のような経緯でサン・モリッツではなくクールの前日泊とした方が1時間以上ゴルナーグラート到着が早まるという理由から決めた。
従ってクールでどこか見たいものがある訳じゃない。モルテラッチから列車に乗り何回か乗り換えてクールに到着したのはもうツーリストインフォメーションが閉まった時間であった。
そのため苦労しながらたどり着いたホテルは、体を休めて翌日早朝の出発に備えるためだけに使った。外出も全くしなかったので、駅とホテルの間の道以外は記憶にない。
クールの朝はあいにくの雨であった。この日は氷河特急のルートで普通列車の旅という移動だけなので助かったと思ったのは早計であることは後でわかる。
この日は普通列車で3回乗換え、Zermattを含めると4回の乗換えでゴルナーグラートを目指すことになる。3回の乗換駅は
Disentis
Andermatt
Visp
である。
クールからディセンティス 1回目乗り換え
クールからツェルマットまでの沿線図
上の地図では本文中に出てくる駅名にピンを立てた。各ピンをクリックすると写真がポップアップする。
クールを発車してライヒェナウ(Reichenau)を過ぎると、イランツ(Ilanz)まではライン川の大地溝帯、別名ライン川のグランドキャニオンに沿って走る。
朝から降っている雨はみぞれまじりになってきた。氷河が後退するときに大規模な地滑りにより現在のような複雑な地形を形成したという。
自動車道はずっと山の上を迂回しており、この景色は鉄道路線からしか見られない。
イランツからはライン川を右に左に見ながら遡っていく。
トゥルン(Trun)を過ぎて進行方向右に大きな修道院が見えてくると、ディセンティス(Disentis)に着く。
氷河特急の場合はこの駅で機関車の付け替えをするようだが、普通列車の場合はここで乗換えとなる。
ディセンティスからアンデルマット 2回目乗り換え
ここからは車両編成は短くなり、山岳鉄道の雰囲気になってくる。ディセンティスを出発すると列車は急勾配にさしかかる。ラックレールを使いグングン高度を上げていくと、今まで線路とほとんど並行して流れていた川がどんどん下になり、視界が開けてくる。
クールを出発するときに雨だったが、もうこの辺りでは完全に雪景色となった。
進行方向左の谷の向かい側のアルプスにはメデル氷河の姿が少し望める。クアネラの貯水ダムの堤防が山の上に見えてくると森林限界を超え、景色は荒涼としたものに変わってくるはずだが、この日は積雪のため見渡す限りの雪景色である。
氷河特急最高地点 オーバーアルプパス(Oberalppass)2033m
そして列車はやがて氷河特急ルートで標高最高点オーバーアルプパス(Oberalppass)2033mにさしかかる。それがこの写真。かなりの積雪なのに列車遅延や運休が無いのには驚きだ。スイス鉄道の保守技術水準の高さを示している。
最高点を過ぎると進行方向左に峠の湖が広がるはずだが、やはりこの積雪ではっきりとは見えない。約800mの雪崩止めのトンネルを過ぎると下りにさしかかり右に左にカーブしながら約600mの標高差をアンデルマットに向かい一気に急勾配を下る。
やがてアンデルマットに着くとここでまた乗換えである。ホーム反対側に止まっているフィスプ(Visp)行きに乗る。
アンデルマットは古くから南北のアルプス越えと現在の氷河特急と同じルートの東西交通路の交差点で、宿場町として栄えた。現在でもその街道はハイキングコースの一部として残されているという。
スポンサーリンク
アンデルマットからフィスプ 3回目乗り換え
アンデルマット(Andermatt)駅で乗換え、フィスプ(Visp)行きに乗る。オーバーアルプパスほどではないがここでも激しく雪が降り続けている。次第に明日のハイキングが心配になってくる。
列車はアンデルマットを発車すると荒涼とした谷を走るはずなのだが、やはり積雪のため何も見えずやがて谷の終点レアルプ(Realp)に到着。
ここから約15分間、全長1万5407mの新フルカ・トンネル抜けると、オーバーワルト(Oberwald)である。1982年にトンネルが開通するまでは、このトンネルの上のフルカ峠が元来氷河特急の名前の由来ともなったローヌ氷河が線路に迫る絶景ポイントであった。
トンネルを抜けると州が変わりヴァリス州に入る。やがてフィーシュ(Fiesch)駅に着く。ここからは進行方向右の山の向こう側にアレッチ氷河が流れており、ロープウェイでエッギスホルン展望台に上るとその景色を眺めることが出来る。リーダーアルプ展望台があるメレル(Morel)駅を過ぎて、谷が開けると大きな町ブリークに到着する。ブリークも歴史のある町で、アルプス越え2大ルートの一つ、シンプロン街道の町として発展してきた。
ブリークを出るとフィスプまでローヌ川沿いをしばらく走る。フィスプで3度目の乗り換えをする。
終点ツェルマットへ
フィスプを発車すると方向を左に変え、ツェルマットへいたるフィスパ川を上っていく。やがてシュタルデン・サース(Stalden Saas)駅を過ぎると列車は再び目もくらむような断崖絶壁にへばりつくように進んで行く。ザンクト・ニクラウス(St.Niklaus)を過ぎ、間もなくすると右側に1991年ヘルブリンゲンの山が突然大崩壊し、ツェルマットが水没の危機となりスイス軍が出動し、整備した所で現在は迂回ルートがとられている。
ランダ(Randa)駅に到着すると、前方に4506mのヴァイスホルンが見える。左側にティーシュ(Tasch)の大駐車場が見えてくると、いよいよツェルマットだ。ツェルマットはガソリン自動車を排除している町だ。車で来るとティーシュで鉄道に乗り換えてツェルマットに入ることになる。
さぁここでマッターホルン・ゴッタルド鉄道(MGB)の終点ツェルマットに到着。ここでも季節外れの大雪のため日本でいうと温泉場のスキー場の繁華街のような歩きにくい雪道の道路に出る。
MGBの駅舎から出て振り返る
MGBの駅舎から出て道路一つ隔てたすぐの位置にゴルナーグラート鉄道(GB)の駅舎があるので絶対迷わないようになっている。
さぁここからGBに乗ると、終点がもう憧れのゴルナーグラートなのだ。
道路方向に視線を戻すと目の前にゴルナーグラート鉄道(GB)の駅舎
(旅行日 2016年5月23日)
コメント